学習環境条件と教養/文化財


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2016/12/6に発表されたOECD PISA2015の【ICT親和性項目】の分析・考察第9弾をお届けする。

今回は1~8弾で扱ったICT親和性項目以外のICT関連項目について(その1)。

家庭学習環境(ST001)

ST001Q01~16は家庭学習環境について尋ねる項目だ。回答は2択(Yesある/Noない)、質問群の回答国/地域は72である。内容構成は次の通り。

ST011Q01TA In your home: A desk to study at 学習机
ST011Q02TA In your home: A room of your own 自分の部屋
ST011Q03TA In your home: A quiet place to study 勉強する静かな場所
ST011Q04TA In your home: A computer you can use for school work 学校課題を解くのに使えるPC
ST011Q05TA In your home: Educational software 教育ソフトウェア
ST011Q06TA In your home: A link to the Internet インターネット接続
ST011Q07TA In your home: Classic literature (e.g. <Shakespeare>) 古典文学(シェイクスピアなど)
ST011Q08TA In your home: Books of poetry 詩集
ST011Q09TA In your home: Works of art (e.g. paintings) 芸術作品(絵画など)
ST011Q10TA In your home: Books to help with your school work 学校課題を解くのに使う本
ST011Q11TA In your home: <Technical reference books> 技術解説書
ST011Q12TA In your home: A dictionary 辞書
ST011Q16NA In your home: Books on art, music, or design 美術・音楽・デザイン書籍

おそらくブルデューの文化資本を意識した項目設定なので、一見学習環境とは関係なさそうな家庭の教養・文化度を測るようなアイテムが入っているのが興味深い(これについては後述する)。

このうちICTと関連する2項目を詳細に見よう。

Q04TA【学校課題を解くのに使える家庭PC】の主要10カ国の分布を図1に示した。「Yesあり」の割合は10カ国中一番低い。日本以外は軒並み85%以上、全体平均でさえ85.6%なのに、日本の数値の低さ62.3%が目立っている。

もっとも、日本の多くの学校では家庭学習でICTを使うこと自体を想定していないのだから、項目で「学校課題自体を家庭のPCで勉強するシーン」を問われても、15歳の回答者にとっては想像さえ難しいかもしれない。「仮に学校課題が出たとしたら、家で作業可能なPCがあるか」くらいのものだろう。60%強の数字には全然現実感がない。

図1 【学校課題を解くのに使える家庭PC】主要10カ国の分布

72カ国/地域の分布はこちらにある。72カ国/地域で見ても日本は下から7番目

上位 アイスランド98.1%  デンマーク98.1%  ポーランド97.2%
平均 85.6%
日本 62.3%(下から7番目)
下位 インドネシア31.6%  ベトナム 45.0%  ペルー55.1%

Q05TA【教育ソフトウェア】の主要10カ国の分布を図2に示した。「Yesあり」の割合は10カ国中一番低い。ウェブベースのアプリも普及しているので、教育ソフトウェアを厳密に解釈するのは難しい。全体平均52.5%よりもデンマーク・オーストラリア・エストニア・英国・スウェーデンは高く、韓国・台湾(台北)・フィンランド・日本は低い。韓国・台湾・フィンランドの共通点はちょっと想像が付かない。

日本の13.5%はかなり低い。Q04TAの家庭PCの割合が低いのと関連があるのは明らかで、「家庭のPCは回答者(生徒)が使う想定でない」か、あるいは、「インターネットブラウザで済んでしまうのでいらない」、のいずれかだろう。筆者は前者だと思うが。

図2 【教育ソフトウェア】主要10カ国の分布

72カ国/地域の分布はこちらにある。72カ国/地域で見ても日本はダントツの最下位

上位 デンマーク89.2%  アイスランド82.7%  オーストラリア77.1%
平均 52.5%
下位 日本13.5%  ベトナム19.4%  インドネシア24.5%

家庭の学習環境と教養・文化財の違い

さて、ここから先はICTとは直接関係のない話なので、読み飛ばしてもらっても構わない。冒頭でST001のアイテム構成は面白いと書いたが、全項目の日本の分布を図3にまとめてみた。

図3 日本の家庭の学習環境・教養/文化財の有無

これを見ると、辞書・学習机・(インターネット接続)・自分の部屋・勉強する静かな場所・学校課題を解くのに使う本は比較的「Yesある」のパーセンテージが高いが、学校課題を解くのに使えるPC・技術解説書・美術/音楽/デザイン書籍・古典文学・芸術作品・詩集・(教育ソフトウェア)は低く、25%以上の落差がある。

どうやら、項目アイテムの回答特徴を拾ってグルーピング出来そうなので、「Yesあり/Noなし」データをクラスタ分析に投入して項目群のデンドログラム(樹形図)を描かせてみたところ、平方ユークリッド距離×Ward法で綺麗に2グループに分割できた。具体的には次の通り、

図4 ST001項目アイテムのクラスタ分析デンドログラム 平方ユークリッド距離×Ward法による

①学習環境条件 学校課題を解くのに使えるPC・インターネット接続・学習机・辞書・勉強する静かな場所・自分の部屋・学校課題を解くのに使う本

②教養/文化財 古典文学・詩集・芸術作品(絵画等)・美術/音楽/デザイン書籍・教育ソフトウェア・技術解説書

グループ項目の「Yesあり(1点)/Noなし(0点)」を足して尺度化した。①学習環境条件スコアのα係数が.61、②教養/文化財スコアのα係数が.68なので尺度信頼性は高くないのだが(個人的にはPC・ネット接続・教育ソフトが同じカテゴリに入らないのが納得いかないんだけど)、ひとまず全回答の尺度得点を計算して、72国/地域別の数値を散布図にプロットしてみた。

図5 学習環境条件スコア×教養/文化財スコアの72カ国/地域の散布図

日本の学習環境条件スコアの平均は6.04、教養/文化財スコアは2.14である。全体平均は学習環境条件スコアが6.07、教養/文化財スコアが3.26なので、学習環境条件はほぼ平均だが、教養/文化財はかなり低い。同レベルはベトナム・メキシコ・アルジェリアといったところだ。日本は韓国・台湾・中国とも違う、かなり特異な位置づけにあることが分かる。

さて、この分布をどう読んだらよいだろう?
教養/文化財スコアのアイテム構成に違和感があるとすれば、日本の人が教養/文化財だと考えるモノサシは欧州人が考えるそれとは決定的に違う事を疑うわけだが、なんだか偏屈なナショナリズムの片棒を担いでいるような気がしてくる。
あるいは、筆者の親世代が高度経済成長期に平凡社の百科事典とか、美術本とか、高価な文学全集モノを意欲的に(多くはたぶん割賦販売で)書架に揃えようとしていた事を考えると、我々世代が教養/文化に対する渇望感とか、そういうモノを揃える余裕を失っていることを冷静に示した数字かもしれない。教養とか文化って何なのだろう?と改めて考えてしまった。


* ST001項目の対象国/地域の内訳は、Algeria, Australia, Austria, Belgium, Brazil, Bulgaria, Canada, Chile, Chinese Taipei, Colombia, Costa Rica, Croatia, Czech Republic, Denmark, Dominican Republic, Estonia, Finland, France, Georgia, Germany, Greece, Hong Kong, Hungary, Iceland, Indonesia, Ireland, Italy, Japan, Jordan, Korea, Kosovo, Lebanon, Latvia, Lithuania, Luxembourg, Macao, Malta, Mexico, Moldova, Montenegro, Netherlands, New Zealand, Norway, Peru, Poland, Portugal, Puerto Rico (USA), Qatar, Romania, Russian Federation, Singapore, Slovak Republic, Vietnam, Slovenia, Spain, Sweden, Switzerland, Thailand, Trinidad and Tobago, United Arab Emirates, Tunisia, Turkey, Macedonia, United Kingdom, United States,
Uruguay, B-S-J-G (China), Spain (Regions), USA (Massachusetts), USA (North Carolina), Argentina (Ciudad Autónoma de Buenos)