朝日記事の説明が釈然としない件


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朝日新聞2017/4/20の記事がOECD PISA2015ICT活用調査結果について報じている。朝日の記事は早晩リンク切れを起こすので、重要なところを引用すると

「日本の15歳、ネット1日何分使う? 他国に比べ控えめ」

・日本の15歳の子どもが1日の間、学校外でインターネットを使う時間は90分で、他国に比べてかなり控えめ。加盟国平均は1日146分、最長のチリは195分、最短の韓国は55分。
・学校の勉強のためにネットを使ったり、コンピューターを使って宿題をしたりする頻度も、日本が最低

これらの内容についてはすでに、このブログで12月にお伝えしている通り。

さて、この結果について記事は「控えめ」という言葉を使ったが、教育関係者は違和感を覚えるに違いない。我々の実感から考えると、学校外でのネット利用平均が90分というのは少なすぎる。原因として考えられるのは、次の通り、

  1. 「調査方法が間違ってるんじゃないか」
    一応大規模な国際調査なのでサンプル数の大きい国は大丈夫だろう(まあ、分析していると小規模国のデータはちょっと怪しいところがある)
  2. 「日本の学校はICTを使っていないからでは?」
    記事中にも結果を分析した担当者の話として「日本の学校では紙の課題や提出物が多く、先生もネット利用を生徒に求めていないのでは」としている。まあ、確かに実態としてはそうなんだが、実態と回答がズレてるんじゃないか疑念に対する答えとしては、説得力がない。
  3. 「政策的に利用時間を抑制しているから回答を躊躇したのでは?」
    これは12月の記事にも書いたけれど私の推測。実際にはもっと多いところを過少申告してるんじゃないか?疑惑だ。長時間利用が社会問題化し(というより国策として煽っている)、利用が学習用途よりも私的用途に傾斜する傾向が強いほど、長時間回答への抑圧的傾向は強くなるだろう。

分析のための尺度化

せっかくOECD・PISA2015のローデータが手元にあるので検討してみよう。ただし、3.に関しては根拠を示す直接データがないので、ビシッと結論は出ないことを先に述べておく。

IC005(平日学校でのネット利用時間)IC006(平日校外でのネット利用時間)IC007(週末校外ネット利用時間)はそれぞれカテゴリ選択肢で実時間になっていないので時間への変換が必要である。OECDレポートの朝日記事グラフの元になったExcelデータがあり、カテゴリからの変換方法について記されているのでこれに従って変換を行った。

カテゴリ選択肢と変換時分は次の通り(3項目共通)

表1 カテゴリ変数から時間への変換テーブル

次に調査で並行して取られている項目を尺度化して分かりやすくする。
ICTの校外私的利用頻度(IC008SC)、ICTの校外学習利用頻度(IC010SC)、ICTの校内学習頻度(IC011SC)*で項目をそれぞれ単純加算して尺度を求める。

各項目は1)ない・ほとんどない 2)月に1~2回 3)週に1~2回 4)ほぼ毎日 5)毎日 の選択肢になっているので、尺度スコアが高いほど利用頻度が高い事になる。

尺度信頼性を示すCronbackのα係数を求めると次の通りとなった。α係数は0.8以上あれば信頼性ほぼ問題がないので、そのまま用いることにする。

*校内でのチャット(IC011Q01TA)を加えるとα係数が下がるので尺度(IC011SC)からは除外した

表2 ICT用途頻度尺度の構成と基礎統計

 

ネット長時間利用者のICT利用頻度は高い

OECDレポートを見ると、ネット利用時間の2時間以上を長時間利用者とカテゴライズしているので、120分を境にして上下2群で上記尺度のスコア平均をt検定で比較してみよう。

それによると、上位群と下位群では0.1%水準の有意差があるので、ネット利用時間の長い回答者は私的・学習/校内外問わず、いずれのICT利用頻度も高いということが分かる。つまり、長時間利用者は遊びだけでなく勉強に使う頻度も高いということ。「ネット依存が~」と仰る方はどうお考えになるだろうか。

表3  各利用頻度尺度について平日校外ネット利用時間上位下位群比較(全回答)

 

ネット利用時間に影響を与えるのはどっち?

ただし、これだと先の2.を検証したことにならないので、さらに突っ込んで考察してみよう。
先のネット利用時間(IC005/IC006/IC007)とICT利用頻度尺度(IC008SC/IC010SC/IC011SC)は分布に偏りがあるので正規性に問題がある。そこでSpearmanの順位相関係数を用いて変数間の相関係数を算出してみた。結果は次の通り。

 

表4  各利用頻度尺度・ネット利用時間の順位相関係数(全回答)

先の話では平日校外ネット利用(IC006TM)と相関が高いのは校内学習頻度(IC011SC)ではないか?というのが仮説になるが、この表ではr=0.144と低く、むしろ、校外私的頻度(IC008SC)の方がr=0.350で最も高い。

つまり、平日校外ネット利用時間と関係が強いのは学習用途頻度よりも私的用途頻度ということになる。これは週末校外ネット利用(IC007TM)も同様で、学習用途頻度との相関はもっと低い。

ちなみに、平日校内ネット利用(IC005TM)についてみてみると、ICTの校内学習頻度(IC011SC)がr=0.421、校外学習頻度(IC010SC)がr=0.231、校外私的頻度(IC008SC)がr=0.195だから、学習用途ときちんと相関が出ていて、実に真っ当な傾向といえる。

日本特有の事情はあるのか?

OECD調査国の中で日本の状況はかなり特異であるという話はすでに述べた通りだが、上記の尺度や項目値について、日本のデータだけ抽出して比較してみよう(日本が他国からみて低い事は分かっているので比較検定はやらない)。

やり方は先ほどと同じ。上位群と下位群では0.1%水準の有意差があるので、ネット利用時間の長い回答者は私的・学習/校内外問わず、いずれのICT利用頻度も高い。これは全回答の傾向と同じ。

表5  各利用頻度尺度について平日校外ネット利用時間上位下位群比較(日本のみ)

 

平日校外ネット利用(IC006TM)と相関が高いのはやはりICT校外私的頻度(IC008SC)r=0.375だ。ICT校内外学習頻度(IC010SC/IC011SC)いずれもOECD全体の相関係数からみると値が小さい。同様に、平日校内ネット利用(IC005TM)と各尺度との係数も小さい。

つまり、日本の15歳のネット利用はほとんどICTの学習用途とは切り離されている、という状況がここからもはっきりと読み取れる。にも関わらず、長時間利用者は遊びだけでなく勉強用途にも使っている、というのは、誰かが言っているような「ネット依存で学力低下」像とはだいぶ違う。少なくとも一般的な教員認識より生徒の現実の方が先を行っている。

表6  各利用頻度尺度・ネット利用時間の順位相関係数(日本のみ)

ここからは推測に過ぎないのだけれど、今日日の15歳生徒にとってみれば、学校で受けるアンケートでネット利用時間を回答するということは、もっぱら校外での私的用途頻度を問われている、という認識になるわけで、ただでさえ依存だ、学力低下だと学校から散々脅されている状況で正直には書けないだろうなあ、と思うのだ。